「極東からの風」Ep.004 私はクローンなのか⁉
とりあえず男の言う通り小川の水を啜い水分補給をした。
水をとってなくて本当に頭がくらくらしていたのだ。…しかし小川の水を飲んだはずなのに味がしたのだ。なんというか、カツオや昆布、そして煮干しや豚骨などのすべての出汁が合わさったようなとてもカオスな味であった。だが少し薄い。
その男に尋ねてみると、これは鯖のバロメーターを機能するものであるらしい。
再び周りを見渡してみると、そこは動物ではなく人間がたくさんいた。
私の顔とよく似た人物がありえないほど下劣な言動をくりかえし口ずさんでいる動画を、やたらと編集しているものやそれを眺めているもの、それとは関係なく単純にただ下劣な言葉を叫んでいるものですらいた。ここにモラルという概念は存在しないのだろうか。
何はどうあれ自分と似たような顔をおもちゃにして遊ばれているのでは、侮辱されたも同然。
制裁を加えてやろうと、兄から教わったオールスターダスト計画を実行しようとしたが、それはさすがに良心に痛む。
妥協案としてこの鯖の人口を1/3に減らそうと攻撃仕掛けた瞬間、男は止めてきた。
「私はこの鯖のオーナーだ、そしてこれには訳がある」
といってきた。
彼の話を理解するにはなかなか時間を要した。まず、私が本物ではなくクローンであることだ。
この世の誰かが、現実世界で少し有名なある人物の顔の情報を抜き取り、クローンを数体作成したらしい。
そのクローンのうちの1体が私であったのだ。
さらに彼はそのクローンを自分のPCに組み込んで、24時間ネットで配信しているらしい。
なぜそんなことをするのかを聞くと
「この世には、いくら有名であってもいつしか忘れ去られる。でも私はこのクローンをはじめとしたネットミームを愛している、だからこの鯖をつくったまである。」
と言ってくれたのだ。
私はいつも人間に”恐れられること”を主にして生きてきたが、逆にここまで愛されているとは思っていなかったのだ。
そして、本来なら忘れられていた私の存在を、しかもクローンという分際なのに、ここまでして守ってくれたであろうこの男、そしてこの鯖の人たちに…初めて新たな感情が生まれてきた。
というより、私にはなく人間にはある感情が生まれてきた。
それは愛だ…
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